Scene.16 立ち止まってなんかいられない!
高円寺文庫センター物語⑯
あっという間の10年。
バイトくん達からの感謝も含めて高円寺文庫センター10周年「宴」を、四丁目カフェのレストラン「四丁目ダイナー」を借り切って開催した。
自分たちでの独自仕入を貫き通して来れたのも、ボクらの本屋スタイルに共感してくれた出版社さん達のお蔭!
いつも月末に「ゲゲゲの呑み会」で飲み交わしてはいても、10周年の区切りのケジメで感謝と御礼をお伝えして未来へと繋げたかった。
「来賓を代表してのご挨拶」というのは、ボクらのセンスではないのですべての方にマイクを渡してスピーチをお願いした。
そして、「宴」を楽しんでいただくためにビンゴゲーム! 店から飛び出しても、本屋はエンタテインメント!
プレゼントは抜け目なく、店で扱っているグッズ。10周年記念イベントと位置付けた独立会計、商品はイベントとして買い上げて参加費から清算させていただきました。
洋泉社の石川ちゃんはもちろん、光文社の檀さんと「ゲゲゲの呑み会」主要メンバーの、太田出版・宝島社・双葉社・リットーミュージック・シンコーミュージック・白夜書房・青林工藝舎・海拓舎・リトルモア。
祥伝社・青弓社・出窓社・ブックパワーにと、申し訳なくも思い出せない方々が他にも多過ぎてごめんなさい!
マスコミは毎日新聞に新文化通信社。肩書や商売上の付き合いがあっても、面白がって来てくれたんじゃないかな?!
お祝いに駆けつけてくれた出版社を一瞥するだけで、文庫センターの個性が窺える宴になった。
「いらっしゃいませ。大原さんったら、久しぶりですよね?」
「パソコンにウィンドウズ98を入れてから大変で、なんだかパソコンに使われているみたいになっちゃって・・・・本への欲求不満って感じ! って、そのまえになにこれ!? 革命家トランプだなんて、油断も隙も無いんだから」
「だから以前、一週間も来なかったらお客さんが不安になる本屋を目指すって言ったじゃないですか。
革命家トランプは、ボクの好みで仕入れたんですけど売れていますよ。高円寺には、ハマりましたね。」
「そうね。お互いに世間のベストセラー無視って、おなじ感性が気に入ったんだから。凡人とおなじようなベストセラーを読んでいちゃ、クリエイティブな仕事ができるわけがないわよ」
「と言うか、世俗的な本なんて読まない方が賢明なんじゃないですか?」
「言うわねぇ~その通りよ。
いまの日本文学に、なんのエロティシズムも感じないの! 店長は、最近どんなの読んでいるの?」
「10代の頃に読んだ本を、読み返すということをしています。岩波文庫の『きけ わだつみのこえ』が新版で出たのをきっかけに、戦争と殺人を考えているんですよ」
河出書房の『なぜ人を殺してはいけないのか』で、人の死を考えていたら現代は宗教と民族が戦争の火種だなって、新潮文庫の『宗教世界地図』と『民族世界地図』に行き着いたんですよ。
なぜ人を殺してはいけないのか? って、大原さんはご意見を持っています?」
「まだ、そこまでは考えてなかったけど。
人を殺していいかどうかの、初めの一歩ね。死刑制度にも通底するんじゃない?」
「そうなんですよ。
自分がいま、殺される状況を考えてごらんなさい! かつて経験したことのない痛みはイヤだし、これで先が無くなってしまう絶望感。もうなにもできないという無力感と虚脱感に、よく言う死に直面して所縁のあった人たちが去来し過去が走馬灯のように駈け過ぎて行く!
手足、舌先、眼球と自由が利かないなかで、脳漿が飛び跳ねるように思考だけが独立して跋扈する・・・・あ、自分の身体は終わるんだなぁ~っと、まさに形而上的に認識せざるを得ない瞬間ですよね。
自分の生が終わる時、すべてが終わると同義。諦めきれぬと、諦めるしかないってことでいいのでしょうか?!
大好きな母方の祖父を亡くした12歳の頃から死を考えていて、藤原新也の『メメントモリ』を読んでさらに考え続けるようになりましたよ。」
「そうね。
たった一度のかけがえのない生を、なんで優しく見守れる視線を持てないのかしら。『優しい日本人』って、かつての映画のタイトルが偽善に思えて来るでしょ」
「大原さん、店長に火を点けちゃいましたね。店長に代わって、コーヒーを炒れましょうか?」